先生、このたびはライブCD完成おめでとうございます。
うむ、ありがとう。
では今回のCDをお求めになられた方のためにいろいろな情報のようなものをお伺いします。まず一曲目の「Fly with the Wind」ですが、なぜこの曲を選ばれたのですか?
2009年、佐藤允彦さんのグループ(saifa)でオランダのノースシージャズフェスティバルに出演した折、近くのブースでマッコイ・タイナーのバンドが演奏していた。懐かしかったので見に行くと「Fly with the Wind」をやっていたんだ。私はマッコイ特有のピアノの左手とベースラインがユニゾるのが好みなんだ。雄々しいんだ。だからマッコイは好きだよ。ゲイリー・バーツは頭真っ白だったなあ(感慨にふける)。聴いているうちこの曲はB-HOTにちょうどいいと思った。メンバーはこの曲を知らなかった。みんな若いんだなあ。でもすぐに気に入ってくれた。
一曲目にしたのは演奏するうえで耳と体がほぐれるのではないかと思ったからだ。良には全編ソロだと思って叩けと言った。他のメンバーにはドラムに負けるなと言った。そのせいか信正は弦を切るし、良はスネアの響き線を切っちまいやがった。
一曲目でそんなことになってどうしたんですか?
どうしたもこうしたも、何もしなかったよ。しょうがないだろ。ずっとそのまま。聴いているほうにはわからなかったんじゃないの。
聴衆をなめてますね。
なめてないよ。
あれは、キース・ジャレットを聴いていて思いついたんだ。ペダルトーンでやたら長いイントロだった。何の曲だったか忘れたけど。それと4度の音から始まるメロディを書きたかった。最初はカリプソのイメージもあったんだ。でも実際にバンドで演奏してみるとああなった。ライブ用にリハモナイズした。ワンコーラスに3度出てくるメロディのハーモニーを3度とも変えた。NOBIEの詩も曲の雰囲気にあっていていいだろ?
いいですね。
そっけないな。
いや、大変いいと思います。
おまえはお世辞がうまくないな。まあ正直でよろしい。
そのとおり。モンクってのは実におもしろいな。あの時代にあれだけ異色なことをやってまわりに認められていたんだ。B-HOTも主流派よりも反主流派モンクに近い。俺の感覚にはピッタリくるんだ。どんな演奏になってもモンクはモンクを言わないだろうな。不思議な人だな。モンクの曲で嫌いなものは無いよ。
ファンクで始まりますね。
いや、モンクだ。
何だっけ?
「Sunflower」です。
ああ、あけみのうたか。あれは彼女がB-HOTのために書いた曲で何やらNOBIEの印象が「ひまわり」なんだって。「ひまわりは同名の名曲があるからやめろ」といったんだ。そしたら「ひまわりさん」だとよ。ふざけるんじゃない!当然却下だ。だがよくよく考えてみるとヘンリー・マンシーニの「ひまわり」の英語タイトルは「Loss of Love」。「Sunflower」とはかぶらない。しかし彼女、フルートはうまいし、さすがにいい曲を書くな。感心な娘だ。
なんかおとっつあんみたいになってますが。
しょうがないだろ。そのくらい年齢差があるんだから。でもジャズのいいところは「歳は関係ない」というところだな。歳だけじゃあない。性別、学歴、一般社会が気にすることはな~んにも関係ない。酒を飲もうが●●●をやろうがどうでもいい。こんなテキトーな商売は無いな。
この曲はNOBIEに詞をつけろ」と言ったんだが「スキャットのほうがいいと思う」と言い返されてわれてしぶしぶ納得した。
言いなりですね。
言いなりではない。
・・・・・??では次の曲、ええと「Bass Folk Song」。
あれはベースソロアルバム「
OLD DIARY」に入れたんだ。中古のフォークギターのような格好のベースを3万円で買ってきてぽろぽろ弾いていたときに出来た曲だ。アンプラグドなんて言葉がはやったな。佐藤さんとの「
DUET」でもやっている。ジャズだとおもって書いていない。何せフォークギターの弦が2本足りないやつだからな。なるたけ変てこに演奏するようにした。NOBIEがベースのための詩をつけてくれた。だからアドリブもベースだけにした。信正に弾かせたらまた面白かっただろうけど。最初のキーはAmで書いたが歌があるのでF#mで演奏した。NHKのみんなの歌みたいなやつだ。
いやあ確かに変てこでおもしろいです。ビートルズみたいでフォークソングみたいで、誰だか忘れたけどヘルメト・パスコワールみたいといってました。
なるほどね。ビートルズの影響は否めない。思春期に聴いたものはこの歳になってもあとをひくんだ。懐かしのメロディってやつかな。たとえば君だと何だ?
レディ・ガガかな?
加賀さん?知らんな。・・・・ふん。
他は嫌いなのね。
いええ~、違いますよ~。いじけてますか?
今回はNOBIEフィーチャー。存分にスキャットしてもらいたかったからね。
この曲はもともとベースの練習用に書いたんだ。パガニーニの無窮動みたいに。ベース用の練習曲は無いだろ。だから自分で作るんだ。お前も遊んでばかりいないで作ってやってみろ。
頑張ります。
ベースラインは4オクターブ上のFから弾き出すんだ。瞬時には何の楽器で弾いてるか、わからないだろ?低音楽器の高音はインパクトがあるんだ。そうだ!いつか低音楽器ばっかり集めて高音を演奏させるか。お客はいやがるぞう!いひひ。
まあいいや。覚えておきなさい。
メロディも私の手くせが入っているのでみんな弾きにくそうだったぞ。でもこういうのはインストの連中はおもしろがるんだ。お客にもうける。
なるほど。NOBIEさんのアドリブはおもしろかったですね。いつものライブでも面白いですが。メンバー皆さんのアドリブも聴いてみたいですね。
そういうリクエストこそが重要だ。あればやりまっせ。
どうして突然関西弁になるんすか!まあいいか。ラストは「SET ME FREE」ですね。大曲ですね。展開がおもしろいですね。最初バラードかなと思えばボサノバになってやっぱり8ビートだとおもったらロックになっちゃう。
私はロックミュージックがルーツなもんでその影響もあるね。モデルがあるとすればツェッぺリンかなあ?これは、CDのオリジナル通りアレンジは変えなかった。気分はロックバンドなんだ。どの楽器も聞かせどころのあるフルコースみたいな曲を作りたかった。全員フィーチャー出来るし。バンドっぽいだろ?
なるほど。では少し休憩して第二部を。
あいよ。ところでお前金持ってるか?少し貸せ。(オフレコ)
のんでないよ。
さっきのお金はそれかあ!・・・セカンドセットはピアノトリオからですね。それも「Aトレイン」。
意外だろこれ。でも始まるとわかる。信正のアレンジなんだ。うちらはエリントン、モンク、ミンガス、マッコイ、モレイラとちゃんとジャズの歴史を踏襲しているんだぞ。ちょっとこじつけかあ。この「A列車」はおもしろいだろ。信正の本領発揮だ。
ほんとピアノすごいですね!演奏もすごいけど弾いている姿もすごい!
私は彼の骨がずれないか心配だ。
ですね。みんな心配しているかも。・・・そしてガラッと変わって「ささやき」。
これはね、アルバム「
Set Me Free」のときすでにできていて時間の関係上オミットしたんだ。今回NOBIEに詩を書き足してもらいアレンジも変えた。こういう曲は箸やすめにいいのだ。おいこら!いい意味でいってるんだぞ。
これはシングルカットって感じですね。J・POPですね。でも先生のバンドはいきなり曲調がかわるんで戸惑いますね。
そこが面白いんじゃないか。客が退屈しているのを目にするのは苦痛だぞ。だがそんな時はすでにバンドが退屈だと思っているんだ。リーダーはバンドも客もすべてに目を向けなくてはならない。でも客が戸惑っているくらいがいいな。たとえばアーマッド・ジャマルのようなビックリ箱みたいな音楽。びっくりさせたりさせられたりするのは好きです。そういえばこのバンドを「おとなのおもちゃ箱」と称したお客さんがいたな。箱をつけないととんでもないことになる。
あはは。次はベースソロですね。この曲は映画「遠い夜明け」をみた帰り道に浮かんだメロディと聞いています。デンゼル・ワシントンよかったですよね。
あれを見たときは新宿に住んでいて(87年)ビコを演じた俳優の名前など確かめようとも思わないくらいこの現実を考えさせられた。映画館から家に帰るまで15分くらい歩くのだがなぜかずっとあのリフが頭に流れていたよ。一瞬で作曲したよ。今考えると相当ショックだったんだろうな。そのあと悲観的になってこの世は嫌だなと思っていたけど、予想より早くマンデラが解放(90年)されたし、世界は大きく変わったな。天安門事件がありチャウシェスクは死に、ベルリンの壁も無くなり、ソビエト連邦崩壊、湾岸戦争、ユーゴ紛争、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦。ううむ。君はどう思う?
何だっけ?
アイアートのトンボですよ!
あの曲も聞いたときにすぐB-HOT向きだなと思った。NOBIEの得意のブラジル音楽だし、何といっても緊張の7拍子から大開放の2拍子に抜ける快感がたまらん。うひひひ。ひっく!。
先生やっぱり飲んだでしょう?
のんでないよ。
コーラスが入っていますね。
すみません・・・いや!なんでお前に謝らなきゃいかんのだ。
しかしこれは完全な記録という主旨での録音ではない。ライブアルバムといえども録音作品には違いないので最小限にはするが、可能な限り手を加えたい。告白するが「BIKO」もコーラスを入れた。「BASS FOLK SONG」では手拍子を入れた。実際は弾きながら歌いたいのだがそこまで歌と演奏の技術がないんでね。
なるほど。先生ぶきっチョですもんね!
そうなんだよな~~かなし~~(しょげる)
でもとってもいいと思いますよぉ。では「カムイモシリ」についてお伺いします。
あれは最初、無国籍的音楽で平和とか自然などのテーマで、どこの世界でも通用するフォークソングを書くつもりでいた。ユーラシア組曲とか言っていた時もあったな。優れた楽曲であれば少々童謡っぽくてもインプロビゼイションが可能だ。ふるさとの北海道の自然がイメージしやすかったので歌詞は私のブレーンの連中に書いてもらった。組曲になっているが今回アレンジし直しさらに信正に前奏曲を書いてもらった。彼は国立作曲科だからな。作曲もいい。ピアノソロがフィーチャーされている。
NOBIEのアカペラから始まる部分は急遽信正の伴奏とした。いつもと全く違うオルゴールのようなアプローチだったな、面白いだろ。
アイヌ語にしたのは私が北海道出身であるということとアイヌは平和を愛する民族だったということで。カムイというのはアイヌ語で神。モシリは土地とか国という意味だ。北海道、樺太、北方領土はアイヌの土地だった。日本人とロシア人に盗られちゃったけどね。アイヌは自然信仰、平和的少数民族だ。亡くなってしまったがアイヌの国会議員、萱野茂さんの話はおもしろいぞ。あと小説だと船戸与一の蝦夷地別件が面白いな。それからついでに、北海道出身佐々木譲のエトロフ発緊急電とか、それと・・・
あっ、ちょっとちょっとすみません。脱線しています。次はいつものラスト、「Endless Journey」ですね。
ううむ。そうじゃ。
・・・ちょっとおじいちゃんっぽくなってますが。
そうか、すまんすまん。NOBIEのやつが突然歌いだしやがってバックが追いつかん。まあいいけど。この曲もアレンジし直した。2トップバトルからピアノソロに行くところなんぞよいじゃろう。興が乗ればNOBIEのラップも聴けるんじゃがのう。ふぁっふぁっふぁあ。
じじいになってます。ねむいんすかぁ。
ううむ。でも盛り上がっているだろう。
信正さんのクラスターも炸裂していましたね。
ステージ横の穴井さん(録音エンジニア)があせっていたな。おもしろかった。
そんなとこ見ていたんですか?
ベースはひまだからな。ねえ、もう帰ろうよ。
アンコールはミンガスのブルースだ。
どうだまいったか。
はい、まいりました。
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