伝説の天才ベース・プレイヤー!
ジャコ・パストリアス・トリビュート・レーベル発足!!
TEEN TOWN CLUB 
ジャコ・パストリアスに捧ぐ
〜ムードスウィングス〜
マウリッツォ・ローリ
Moodswings - A TRIBUTE TO JACO PASTORIUS /Maurizio Rolli & A.M.P.Big Band
ジャコ未亡人イングリッドも認めたイタリアの鬼才ベーシストが第1弾で登場!

私の考えでは、マウリッツォ・ローリはこのアルバムで、ジャコという人間とその音楽を探求し尽くし、見事に彼の真髄を捉えることに成功している。しかもジャコのやったことをそのまま再現するのではなく、彼の音楽の完全性に敬意を払い、適度な距離を保ちながら、マウリッツォ独自の解釈を付け加えることによって、オリジナル演奏と“付かず離れず”の絶妙な瞬間を創り出している。「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」と「ティーン・タウン」も目覚しい成功作だが、コンポーザーとして、ミュージシャンとして、マウリッツォが真の傑出した才能を示しているのは「D‐ジャコ」であろう。
全体的にみて、このアルバムは、これまで発表されたジャコへのトリビュート作品のなかのベストだと断言できる。

イングリッド・パストリアス(2002年11月15日)
*この文章は日本盤発売のために書かれたものです。

Label: Teen Town Club
CD品番: RKCT-2500
POS: 4544873 025006
発売日: 2003.2.19
税込価格: \2,500
税抜価格: \2,381
発売会社:有限会社ローヴィング・スピリッツ
販売会社:スリーディーシステム株式会社
     株式会社プライエイド・レコーズ
【メンバー】
マウリッツォ・ローリ(b, el-b)、マイク・スターン(g)、マイケル・マンリング(el-b) ほか

【収録曲】
1.ドナ・リー・ジャム
2.スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット
3.ティーン・タウン
4.グッドバイ・ポーク・パイ・ハット
5.ドナ・リー
6.ウィング・アンド・ア・プレアー
7.ハヴォナ
8.コンティニューム
9.インヴィテーション 
10.ポートレート・オブ・ルーシー 
11.D-ジャコ (ジャコ、ジャンゴ、ジョン・ルイスに捧ぐ)
12.(シークレット・トラック)

 ジャコ・パストリアスは、20世紀が生んだ革新的かつ偉大なミュージシャンだ。ベース・プレイヤー、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーとしてジャコが残した遺産はあまりに大きい。その名は世界中にとどろき、彼のベース・プレイは、ベーシストのみならず、すべてのミュージック・シーンに多大な影響を与え、シーンそのものを大きく変えてしまった。あの独持のフレットレス・ベース・サウンドは、今も世界中のどこかの街でながれている。

そのエレクトリック・ベースの革命児、ジャコ・パストリアスが亡くなって15年がたつ。その間、未発表テイクなど様々な作品がリリースされ、その度に新たなファンを獲得するジャコの人気の高さは、まさに神がかっているといえる。

今回、登場する『ティーン・タウン・クラブ』は、そのジャコに関係するものなら、なんでも出していこうというレーベルだ。言ってみれば、ジャコ・フリークのためのジャコ専門レーベルと考えて頂いていい。
スーパーバイザーに、ジャコ研究家として世界的に活躍している松下佳男氏(音楽誌ADLIB編集長)を迎え、ジャコ・ファンが喜びそうな企画を立てていきます。

その第一弾として登場するのが、イタリアのベーシスト、マウリッツオ・ローリ(MAURIZIO ROLLI)のジャコ・トリビュート・アルバム『MOODSWINGS』だ。

イタリアのペスカーラで活躍する彼は、音楽学校でベースを教える教授でもあり、これまでジム・ホール、マイク・スターン、ボブ・ミンツァー、マイケル・マンリング、ダイアン・シュアーなどと共演しているイタリアを代表するベース・プレイヤー、ミュージシャンだ。

有限会社ローヴィング・スピリッツ
冨谷正博



企画意図
「ジャコになる」。それは若いエレクトリック・ベース・プレイヤーが、研鑽を積んでいく過程のどこかで一度は必ず見る夢だ。破天荒な人生だったにもかかわらず、ジャコ・パストリアスは、彼を追いかけるすべてのミュージシャンを今も魅了し続けている。エレクトリック・ベースという楽器において、彼のように大きな影響力と革新性を持ったミュージシャンは二度と現れないだろう。

ベース・プレイヤーが真っ先に自覚しなければいけないのは、もうひとりのジャコになるのは不可能だということだ。時として現実は残酷なものだが、それを直視しないと、アーティストの夢が打ち砕かれて、仕事の内容に悪影響が及ぶ危険が生じてしまう。


このレコーディングは、ジャコの最も心惹かれる、そしてそれゆえにもっと評価されてしかるべきだと思われる作品を、鮮明に心に刻み込むために企画された。

私の教えている生徒たちの夢に駆り立てられ、昨年12月1日、私はジャコ・パストリアスをテーマにしたジャム・セッションを開催した。このバースデイ・イベント(それはジャコの誕生日だった)では、ビデオの上映、コンサート、ペスカーラにあるカバラの事務所から差し入れられたバースデイ・ケーキ、ジャコを敬愛してやまないエレクトリック・ベース・プレイヤーたちによる演奏などが披露された。オーディエンスの熱い反応もさることながら、集まったミュージシャンたちの情熱の深さは並大抵ではなく、私はジャコという存在と、彼の音楽がミュージシャンに及ぼした、そして(言うまでもなく)今後も及ぼすであろう影響力の大きさを、改めて実感した。

●演奏曲
1.ドナ・リー・ジャム  Donna Lee Jam (C.Parker)
<solos> M.Manring(el-b), M.Rolli(ac-b)

これはパストリアスのソロ・デビュー・アルバムの中でも、ひときわ印象的な曲であり、そこでのドン・アライアス(コンガ)とのデュオによる演奏は名演として知られている。そのイメージを壊さないようにしようとした結果、私は、彼の最も純粋な後継者のひとりであるマイケル・マンニングの助けを借りた。このトリオ・ヴァージョンが、あの衝撃的なデュオ演奏の再演に恥じないだけの内容であることを願っている。

2.スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット  Tree Views of a secret (J.Pastorius)
<solos> D.Torto(voc), A.Trabucco(p)

多くにファンにとって、これはジャコの最も傑出した作品であろう。私はこれまでアルバム化された様々なヴァージョンを想起させる手法を採り、さらにパストリアス自身が書いたいくつかのラインも織り込んだ。コーラスをバックにしたピアノ・ソロやダイアナの素晴らしいソロ・ヴォイスを付け加え、ソプラノ・サックスとヴォイス(私の大好きな楽器だ)を中心としたアレンジを施して、この曲の美しさを際立たせようと努めた。

3.ティーン・タウン Teen Town (J.Pastorius)
<solos> G.Alfani(g), A.Trabucco(p)

この曲はエマヌエル・フリエーロにアレンジを頼んだ。オリジナル・ヴァージョンが完璧すぎるので、どんな再演をやっても、その名演を汚すことになる恐れがあったが、私の期待は裏切られなかった。ミュートを付けたブラスを効果的に使い、不遜にもベーシストではないミュージシャンがベーシストのバイブルとも言うべき曲をアレンジした結果、模倣せずにオリジナルの影が見え隠れし、歪曲せずにオリジナルとは別のものに生まれ変わるという、迫力あふれる作品に仕上がったと思う。

4.グッドバイ・ポーク・パイ・ハット  Goodbye Pork pie hat (C.Mingus)
<solos> A.Canelli(p), S.Garofoli(tp)

ジョニ・ミッチェルのアルバム『ミンガス』に入っているこの曲は、ベース・ソロに始まってピアノがからむ、フリー・テンポのイントロでスタートする。しかしここでのジャンニ・バンゾーラのアレンジはそれとまったく異なり、イントロでブラス・セクションを起用している。

5.ドナ・リー  Donna Lee (C.Parker)
<solos> C.Filippini(p), D.Torto(voc), F.Bosso(tp), M.Ionata(ts)
 
 「ドナ・リー」のような名曲はひとつのヴァージョンだけでは物足りない。これは1曲目とは全く異なった雰囲気でアレンジした別ヴァージョンだ。バップ時代を思わせる、多少ユーモラスな感じでアレンジしてみた。往年のビッグ・バンド・サウンドにも一脈通じる響きを持っている。マックスとファブリッツィオ(アームストロングを想起させるソロをとる)による典型的なバップ風のソロがフィーチャーされている。全体として、ほかには例のない、ユニークな演奏に仕上がったと思う。ダイアナによる有名なジャコのソロ・ブレイクの引用や、ジャコのヴァージョンと同じエンディングを挿入して、彼への敬意を表した。

6.ウィング・アンド・ア・プレアー  Wing and a Prayer (M.Stern)
<solos>  M.Stern(g), M.Rolli(el-b)

これはマイク・スターンがジャコの死後、彼に捧げて書いた曲だ。このレコーディングに際して、スターンにゲストとして参加してもらったのは、彼が紛れもない才能豊かなミュージシャンであると同時に、私の敬愛する人でもあったからだ。彼のパストリアスへの友情がこの曲のモチーフになっている。このアルバムのタイトルを『ムードスイング』(感情の起伏)としたのは、ジャコの性格が激しく変貌したからだけではない。このアルバムに入っている演奏が、それぞれスタイルの上で変化に富んでいるからでもある。この曲での、弦を主体とした楽器編成によるアレンジにも、それが反映されている。


7.ハヴォナ Havona (J.Pastorius)
<solos> G.Esposito(ss), M.Stern(g), M.Rolli(el-b)

ベーシストにとって、この曲のオリジナル演奏で最も心惹かれるのは、有名なジャコのベース・ソロの箇所だろう。見事なリリシズム、ストラビンスキーからの引用、間の効果的な用い方、絶妙のバランス感覚などからして、そのプレイは私の聴いた中で最も美しいベース・ソロであり、作品の中にあるもうひとつの完璧な作品だと言えるだろう。アレンジにあたっては、このパートの扱い方に注意を払った。ベースでそのまま再現すれば猿真似になってしまうし、全くなしにすればウェザーのヴァージョンの重要な構成要素が抜け落ちてしまう。結果として、オリジナルのベース・パートをオーケストラで再現するという方法に落ち着いた。

8.コンティニューム  Continuum (J.Pastorius)
<solos> A.Trabucco(p)

この曲もまたオリジナル・ヴァージョンのアレンジがあまりにも素晴らしく、到底それを無視することはできなかった。そこで私は最初のパートでは、そのアレンジをそのまま使った(イタリアに「壊れていないものは修理するな」ということわざがある)。そしてそこから、通常のトーナルなハーモニーではなくモード手法を取り入れたハーモニーを使い、ベースではなくソプラノがメロディーを演奏し、繰り返し出てくるメイン・テーマはオーケストラの様々なセクションによって演奏されるという、オリジナルとはガラリと変わったアレンジを施した。

9.インヴィテーション  Invitation (B.Kaper)
<solos> A.Succi(b-cl), M.Morganti(tb), M.Ionata(ss)-left channel, Gesposito(ss)-right channel

 このアレンジも、アルバム『バースデイ・コンサート』に収録されていたヴァージョンに基づいている。そこでの演奏は、ジャコのベースがリードするファンクとラテンの中間をいく迫力あふれるグルーヴと同時に、マイケル・ブレッカーとボブ・ミンツァーの2人によるテナーの競演が大きな聴きものだった。私はその雰囲気をこの演奏に持ち込もうと努めた。ここではベース・クラリネットやトロンボーンのような低音楽器がリードして、オリジナルとは異なった、それでいて同じように強烈なラテン・ファンク・グルーヴを創り出している。さらにテナーではなく、マックス(左チャンネル)とジャンルーカ(右チャンネル)によるソプラノの競演がフィーチャーされている。

10.ポートレート・オブ・ルーシー  Portrait of Lucy (Simona Capozucco)
<solos> A.Succi(as)

 ジャコの音楽を解釈し、再現することにより、彼のポートレートを描き出すという行為は、ジャコが愛する人をテーマに作曲したのと相通ずるものがあると思う。それと同様に、シモーナ・カポズッコは、ベース・ソロ用にジャコが書いた「ポートレート・オブ・トレーシー」に触発され、彼女の親友(ルーシー)のポートレートを曲に仕上げた。このアルバムには、トレーシーと全く同じポーズをとったルチアの写真が載っている。この写真を撮ってくれたカメラマンに感謝したい。

11.D-ジャコ  D-jaco (M.Rolli)
<solos> M.Rolli(ac-b), F.Bosso(flghrn), M.Stern(g), G.Esposito(ss)

ジャコ、ジャンゴ、ジョン・ルイスに捧ぐ

 このアルバムの中で私の作った唯一の曲がこれだ。ジャズ史の中で幾分か過小評価されていると思われる3人のミュージシャンに捧げて書いた。このタイトルからはジョン・ルイス(このアルバムのレコーディングを始めた日に彼は亡くなった)の「ジャンゴ」(Django) が頭に思い浮かぶであろう。演奏においても、「ジャンゴ」のオリジナル・メロディーは、ワグナーの作品に現れる主題のように、全体の様々な箇所に点描される。それによって私の曲とルイスの曲とはひとつのフレスコ画のようにつながることになる。続いてダイアナとマイクによる「ジャンゴ」のテーマが現れる。メイン・テーマは、卓越したマイクのソロに受け継がれる。彼はファブリッツィオのソロ(彼は私の曲に最高のプレイで花を添えてくれた)の最後のフレーズを受け取り、見事なメロディーを紡ぎ出しながら、エンディングのテーマにつながるケーデンスでクライマックスを創り出している。

マウリッツオ・ローリ

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