故郷
山枡信明 日本を歌う
気鋭のテノールによる日本歌曲の決定盤!

  なつかしき歌、今よみがえる...
RKC-8002  \2,500(税込定価)


[収録曲目]

1. 故郷                  高野辰之 作詩    岡野貞一 作曲       2'25
2. 浜辺の歌                古溪 作詩    成田為三 作曲       2'45
3. さくらさくら          日本古謡         山田耕筰 編曲       1'53
4. 中国地方の子守歌      日本古謡         山田耕筰 編曲       2'21
5. 箱根八里              鳥居  忱 作詩    瀧廉太郎 作曲       2'44
6. 荒城の月              土井晩翠 作詩    瀧廉太郎 作曲       5'36
7. 花                    武島羽衣 作詩    瀧廉太郎 作曲       2'25
8. 城ヶ島の雨            北原白秋 作詩    梁田  貞 作曲       4'09
9. 出船                  勝田香月 作詩    杉山長谷夫作曲      2'27
10. 叱られて              清水かつら作詩   弘田竜太郎 作曲      3'42
11. 宵待草                竹久夢二 作詩      忠亮 作曲       1'34
12. びいでびいで          北原白秋 作詩    平井康三郎 作曲     1'33
13. かんぴょう            北原白秋 作詩    福井文彦 作曲       1'02
14. 赤とんぼ              三木露風 作詩    山田耕筰 作曲       2'32
15. あわて床屋            北原白秋 作詩    山田耕筰 作曲       2'15
16. ペチカ                北原白秋 作詩    山田耕筰 作曲       3'39
17. 待ちぼうけ            北原白秋 作詩    山田耕筰 作曲       1'58
18. この道                北原白秋 作詩    山田耕筰 作曲       3'17
19. 椰子の実              島崎藤村 作詩    大中寅二 作曲       3'26

山枡信明 (Nobuaki Yamamasu)
テノール歌手の山枡信明は横浜に生まれた。はじめ彼は音楽の理論的研究に取り組み、東海大学において福田達夫、松前紀男のもとで学んだ。在学中の山枡に声楽の才能を認め、励ましてそれに訓練を施したのは吉田旅人であった。1983年には初の歌曲リサイタルを開催した。

  その後1985年に渡独し、ハイデルベルク教会音楽大学とシュトゥットガルト音楽大学にて、声楽、オペラ、歌曲演奏などを学んだ。またヘルムート・リリング主宰のバッハ・アカデミーに度々参加し、アルド・バルディン、ジョン・エリオット・ガーディナーなどの指導を受け、ウィーンではフランシスコ・アライザのマスター・コースで研鑚を積んでいる。
  1992年からはヴッパータール歌劇場の専属ソリストとして多くの役で活躍した。またエッセン歌劇場などへ客演している。1995年からはケルンを本拠地とする西ドイツ放送協会のWDR放送合唱団の専属第一テノール歌手をつとめると同時に、オラトリオの分野を中心にドイツ各地のコンサートにソリストとして数多く出演してきた。ケルンWDR放送交響楽団との録音でもソリストをつとめている。
  また1996年と1998年にはそれぞれ南米チリとグルジア各地に客演、バッハ「ヨハネ受難曲」のエヴァンゲリストを歌って絶賛を博した。

ユリア・セルチンスカイテ (Julia Selcinskaite)
  ピアニストのユリア・セルチンスカイテはリトアニアの首都ヴィルニュス出身である。まず故郷でルバツキーテらのもとでピアノと室内楽を学んだあとリトアニア国家の奨学生に選ばれドイツ、ケルンの音楽大学に学ぶチャンスをつかみ、ロスヴィタ・ゲディガに師事し、修了時には優秀賞を得た。またロシアのヴェデルニコフ、オーストリアのベルトルチなどのマスター・コースで研鑚を積んでいる。
  セルチンスカイテは優れた室内楽奏者としてドイツ全土で活躍するかたわら、母校のケルン音楽大学で後進の指導にあたっている。その美しい音色に裏打ちされた繊細で叙情的なピアニズムはこの日本歌曲のCDにもよくあらわれている。

西洋の響き、日本の心

  「日本を代表するような歌にはどんなものがありますか」と外国の人から聞かれたら、あなただったらどんな曲を挙げるだろうか。 いろいろな曲が出てくるはずだが、かなり多くの人がこのCDに収められたような曲を挙げるのではないだろうか。もちろん世代によっても好みによっても開きが出てくるが、それらを超えて共通する部分を求めると、ここにあるような一群の歌が浮かび上がってくるだろう。

  これらの歌は日本に西洋音楽が急速に導入された時期につくられたものだ。この分野のパイオニアたちは西洋音楽の驚くべき豊かな響きと出会い、必死でそれを模倣して技法を習得し、歌曲の分野を手始めに作曲活動を進めていった。不慣れやぎこちなさもあろうが、この真摯で力強い取り組みのなかから、のちの日本人にとって心の故郷となるような珠玉の名曲が次々と生み出されていったさまは感動的である。日本の音楽教育がその後西洋一辺倒になり、伝統邦楽や民謡がなおざりにされていったという残念な事情はあるとしても、それとは別に、この時期の芸術家がすばらしい仕事をしてくれたことに私は感謝したい。

  これらの歌では西洋音楽の技法が日本的な感覚とぶつかり合い、また結び合っている。このCDの11人作曲家のうち少なくとも5人はドイツに留学した。彼らはドイツの音楽伝統の圧倒的な厚みに出会い、それと格闘したことだろう。そしてスタイルは借りながらも、そこに日本的情感を盛り込むことに成功した。それから年近くを経た今、筆者もドイツにおいて音楽の伝統と対峙している。一度外へ出て、異質の西洋で声や表現の技術を学び取ってきた者が、あらためてそれを日本の歌で試そうとしている。私にとってこれらの歌を歌うことは、大先輩たちの西洋との出会いを追体験しつつ、自分の心のなかにある故郷「日本」を見つめ直すことである。

  山枡信明